債券は株式に比べてリスク(価格の変動幅)が小さく、安定した収益が見込めるため、手堅い投資先としてその地位が確立しています。2023年8月時点、2年物の米国債券の利回りは5%と歴史的に高い水準になっており、債券の人気がさらに高まっています。
債券は、発行体がお金を期限付きでお金を借りて、お金を借りている間は利息を払ういわゆる借金ですが様々な種類の債券が発行されています。
1 債券の種類
債券には、国が発行している国債や企業が発行する社債などがあります。債券のタイプには利付き債と割引債(ゼロクーポン債)があります。利付き債は、年に数回利払いがあるタイプで、この利払いのことをクーポンと呼ぶこともあります。一方、割引債は利払いがないタイプで、クーポンがないことからゼロクーポン債とも呼ばれます。ゼロクーポン債は利払いがないため、償還時に購入価格よりも多くのお金を返す仕組みになっています。
また、発行される債券には格付け会社が格付けを行います。低い格付けがなされてしまうとその国や企業の信用力が低いということになり借り手には不利になります。一般的に、格付けの低い債券ほど利回りが高くなる傾向があるからです。
2 債券投資のメリット、デメリット
(1)メリット
手堅い利回り
債券のメリットは、クーポンを受け取りつつ、満期(償還日)まで待てば額面の金額が返却されることです。満期を待たずに換金すると損する可能性がありますが、最後まで保有すれば元本割れすることはありません。株と異なり、債券は将来のどれだけお金が入ってくるか計画を立てやすいという点もメリットです。
ポートフォリオのリスクの低減
債券を株式投資の中に組み入れるとポートフォリオ(株や債券などの資産の組み合わせ)のリスクを下げることができます。つまり、保有している資産全体の価格変動をマイルドにできます。資産の急上昇や急下降を減らすことができ、安定した資産の形成が可能となります。
(2)デメリット
流動性リスク
購入した債券はすぐに売って換金できない恐れがあるため、債券の売買が頻繁にできない可能性に注意が必要です。この流動性リスクは、債券をETFや投資信託の形で投資することによって避けることができます。
信用リスク
最初に説明したように、債券の発行体がデフォルトする可能性を信用リスクと言います。デフォルトになると、クーポンの支払いがなくなることや元本が返ってこなくなることがあります。格付けが低い債券は高い利回りが魅力ですが、信用リスクが大きいためデフォルトの注意が必要です。
固定利回り
インフレが急激に上昇する状況では、固定利回りの債券のリターンがインフレに追いつかず、実質の資産が目減りする可能性があります。債券のリターンは一般的に株式のリターンよりも低いため、長期的な資産形成では株式に劣る可能性があります。
為替リスク
また、海外の債券を購入する場合、為替リスクが存在します。債券のリターンでは、為替変動による価格変動を吸収できず、最終的に為替差損になる可能性があります。
115(ドル)×80(円/ドル)= 9,200円
3 実際に売られている債券、投資信託、債券ETF
債券のメリットとデメリットを説明してきましたが、実際に売られている債券を3つ紹介します。
個人向け国債(変動10年)
個人向け国債(変動10年)は、年2回クーポンが受け取れます。クーポンの利率は10年固定利付国債の金利の66%分で、最低0.05%が保証されています。1年以上経過すれば元本割れすることなく換金が可能です(1年以上経過して10年を待たずに換金すると若干の手数料を取られますが、元本割れにはなりません)。通常の債券では、途中で売却すると損をする可能性がありますが、個人向け国債の元本割れしないのがメリットです。
eMAXIS Slim先進国債券インデックス
eMAXIS Slim先進国債券インデックスは、先進国の債券市場を追跡するインデックス(FTSE世界国債インデックス(除く日本、円換算ベース))に連動する投資信託です。この投資信託を購入すると、日本を除いた先進国の政府債や企業債などに投資できるため、地域リスクの分散効果も期待できます。このインデックスの半分はドル建ての債券で構成され、上位10銘柄の多くはアメリカの国債です。信託報酬が年率0.154%とかなり低めに抑えられています。債券のインデックスファンドを購入する際は信託報酬が低いものを選びましょう。
債券投資信託の中には年に数回配当金を支払うものがありますが、この投資信託は配当金を出しません。投資信託で保有されている債券が配当を受け取ると、その配当は新しい債券を購入するように運用されます。
海外ETF(BNDやAGGなど)
海外の債券をまとめたETFを購入する方法もあります。BNDはアメリカのバンガード社、AGGはブラックロック社によって提供される米国の債券ETFです。BNDやAGGは、大部分がアメリカ政府系の債券で構成されており、格付けの70%以上がAAAであり非常に安全な債券ETFと言えます。配当利回りは2%~4%の範囲です。毎月分配金が支払われるため、分配金を希望する方にはメリットとなるでしょう。信託報酬はそれぞれ0.03%と0.04%としており、かなり低く設定されている点が特徴です。ただし、この分配金にはアメリカでの課税が10%控除された後、さらに日本の税金が20.315%かかるため、受け取れる分配金は当初の約72%になります。
BNDやAGGの強みは不況時の下落耐性であり、リーマンショックの際も約5%程度しか値下がりしませんでした。BNDはAGGはローリスクの債券の代表格です。ミドルリスク、ハイリスクの米国の債券ETFとしてはLQDやHYGがあります。これらは利回りが高い反面、BNDやAGGに比べて格付けが低く、信用リスクが大きいとされる債券ETFです。不況時にはBNDやAGGよりも大きく下落する恐れがあります。債券投資においても、ローリスクはローリターン、ハイリスクはハイリターンという関係が成立することを理解することが重要です。
4 金利と債券価格の関係
中央銀行の貸し出し金利が上昇し、市中の貸し出し金利が上昇すると債券価格が下落します。逆に金利が低下すると債券価格は上昇します。なぜこのようなことが起こるのかを説明します。(ここで注意して頂きたいのは、持っている債券を途中で売ろうとするから価格が変動するのであって、売り出し時に買って最後の償還日まで債券を持ち続ける場合は価格変動を気にする必要はありません。)
まず、以下の債券を保有していたとしましょう。金利が1%上がった場合、手持ちの債券を売却する際の価格がいくらになるか計算してみます。
現在の金利は債券を購入した際の6%から1%上昇して7%だと仮定しましょう。つまり、新しく債券が発行される際は利回りが7%になるということです。この時点で、上記の仮定しためたる会社債券は利回りが6%しかないため、新たに売り出される債券(ここでは新債券としておきましょう。)の利回り7%よりも利率が低く、購入したときの価格では売れないでしょう。
しかし、この債券であっても値引きして売れば購買者が現れるでしょう。一体、いくら値引きすれば売れるのでしょうか?値引き後の利回りが7%になれば、めたる債券が新債券と同じ評価となり、売れるようになると思われます。利回りが7%となるめたる会社債券の新しい売値(値引きされた価格)を計算してみましょう。
まず、めたる会社債券の現状を把握しましょう。残り3年で受け取れるクーポンの総額は100万円 × 6% × 3年で18万円です。また、3年後には100万円が償還されるので、合計で118万円が受け取れる計算となります。
100万円が返却されるめたる会社債券は最終的に118万円になる計算ですね。元々の購入価格の100万円よりも安く売りだし、3年後に118万円貰った時、年7%の利回りになるよう値引きすればいいわけです。これを計算してみます。3年では7%×3年=21%の運用となるように売る価格を決めるとします。戻ってくる元本分(100%分)も考慮して、新しい債券価格を計算すると
上記の計算により、新しい債券価格は97.52万円になります。したがって、100万円で買った債券ですが、値引きして97.52万円で売れば売れるということになります。そうすれば、3年後に118万円となり、97.52万円に対する利回りが年7%となります。価格変動率は(100−97.52)/100×100%=2.48%です。つまり、価格変動率分を安くして売ればすれば、その分利回りが上がり、売れるということになります。これが、金利が上がると債券価格が下がる理由です。
逆に、金利が6%から5%に低下した場合、債券価格は値上がりします。同様にどの程度債券価格があがるか計算してみましょう。先に説明したようにめたる会社債券は3年経てば118万円が戻ってきます。この118万円に対して、新しい販売価格の利回りが年5%つまり3年で15%であっても債券価売れると考えます。つまり、
を計算します。これを計算すると新しい債券価格は102.61万円となり、元々の100万円よりも高く売れることになります。これが金利が下がると債券価格が上がる理由になります。
デュレーション
債券の価格はその残存期間が長くなるほど、変動が大きくなる傾向があります。たとえば、さきほどのめたる会社債券の残存年数が3年ではなく10年だったとします。そして、市場の金利が6%から7%になったと仮定します。このとき、6%の利回りで10年間で得られるお金は100万円+60万円=160万円です。しかし、市場の金利が年7%に上がったとすると、すると10年で元本も合わせて170%にならないと売ることができません。これを式(1)(2)と同じように計算してみると
となります。これを計算すると新しい債券価格は94.12万円となり、3年後に償還の場合(式(2))の97.52万円よりも安くなります。逆に金利が下がったときは同様に価格上昇は3年後償還のものよりも大きくなります。このように償還期限が長いと価格の変動が大きくなります。1%金利が変わった場合の価格変動の大きさをデュレーションと言います。償還まで3年の価格変動率は2.48%でしたのでデュレーションも2.48年ということができます。デュレーションの単位は年ですが、基本的には債券の残存期間がデュレーションと考えても大きな問題にはなりません。例えば5年の残存期間があればデュレーションは約5年と考えて問題ありません。
先ほどの例ではデュレーションは2.48年で3年の残存期間なのに3年以下ですが、それは利付き債券だからです。割引債(ゼロクーポン債)の場合はきっかり3年となります。利付き債の場合は割引債よりもデュレーションが少し短くなります。
デュレーションが大きい(つまり、残存期間が長い)債券は価格変動が激しいので基本的には利回りは大きくなります。逆にデュレーションが小さい債券は価格変動が小さいので利回りも小さいです。普通に考えて、1年後に元本部分が帰ってくる債券と10年後に帰ってくる債券では10年後に帰ってくる債券のほうが利回りが高くないとお金を貸さないですよね。この残存期間と利回りの関係をイールドカーブと言います。残存年数が長いほうが利回りが高くなるのが普通でこれを順イールドといいます。
残存期間が長い債券はデュレーションが長くハイリスク、ハイリターンになります。短い債券はデュレーションが短くローリスク、ローリターンになります。
株式の投資について学びたい方は以下をご覧ください。