インデックス投資と高配当投資とどちらがよいかXなどで論争になることがあります。僕はインデックス投資派です。高配当投資は配当金が貰えるのが心地よいのですが、資産の最大化を目標にすればインデックス投資に軍配が上がると考えます。この記事ではシャープ・レシオの説明、現代ポートフォリオ理論の説明を簡単にします。その後、インデックス投資のほうが資産最大化の面で優れている理由、インデックス投資の出口戦略、理論だけではなく現実のパフォーマンスを見てみたいと思います。
インデックス投資はシャープ・レシオが高い投資
インデック投資を勧める理由は、リスクを同じとした場合、高配当株投資よりも高いリターン、つまり高いシャープ・レシオを期待できるからです。シャープレシオは以下の式で表されます。
「リスク」は株価の変動の度合い、「リターン」は平均の予想される儲け、「無リスク資産」は国債として、「無リスク資産の利率」は国債の利子としています。
リスクがある値に決まるなら、リターンが大きいほどシャープ・レシオが高いことになります。
インデックス投資は市場ポートフォリオの投資
図2は株式を複数銘柄買った時の組み合わせによるリスクとリターンの取り得る範囲を描いています。薄緑の範囲にリスクとリターンが収まります。このような範囲になるのであれば、ほとんどの投資家はリスク当たりのリターンが一番大きくなる投資(シャープ・レシオが高い投資)を目指します。図2で取れるリスクをRaとしたとき、シャープ・レシオが一番高いところは赤線上の青点の投資を目指すことになります。リスクを調整すると青点はシャープ・レシオが一番大きい青点は赤線上を動きます。この赤線を効率的フロンティアと言います。シャープ・レシオの最大化を目指す投資家は、リスクを変化させたとき、銘柄組み合わせによって効率的フロンティアに載るように株式の投資銘柄及び投資比率を決定します。
効率的フロンティアについては以下をご覧ください。
現代ポートフォリオ理論では、図3のように、無リスク資産(国債を想定)のリターンから効率的フロンティアに接線を引いた青線が最善の投資効率になります。効率的フロンティアと青線の接点(灰色の点)を接点ポートフォリオと言います。接点ポートフォリオの組み合わせ銘柄と無リスク資産の割合を変えること青線上を行き来します。つまり、シャープレシオが最高の投資におけるリスクとリターンの調整は、接点ポートフォリオと無リスク資産の割合調整できるのです。これを「トービンの分離定理」と呼びます。シャープ・レシオを高めたい投資家はこの青線上の投資をすれば良いことになります。
トービンの分離定理によれば、リスクを落としたければ無リスク資産の割合を増やせばよいことになります。例えば、無リスク資産50%、リスク資産50%と投資すれば、リスクRaから半分のRa/2にすることができます。リターンは若干落ちてBaからBbになります。
ここで、接点ポートフォリオとは何かを説明していませんでしたが、接点ポートフォリオは市場ポートフォリオであり、実はインデックス投資なのです。インデックス投資が接点ポートフォリオなので、シャープ・レシオが高い投資はインデックス投資そのものです。
投資先が決まれば投資家は、トービンの分離定理によって、インデックス投資にどれだけ投資して、どれだけ無リスク資産とするかを決めるだけです。無リスク資産が国債としましたが現在の日本国債の利回りは低いため現金でも問題ありません。
結論は、インデック投資と無リスク資産を持つのがシャープ・レシオの良い投資なのです。接点ポートフォリオが市場ポートフォリオとなり、インデックス投資となる理由についての解説はこちらはご覧ください。
高配当投資は市場ポートフォリオから外れる
ちょっと回り道をしてしまいました。高配当株の組み合わせである高配当投資は市場ポートフォリオではないので、シャープ・レシオが低下します。市場ポートフォリオからずれてしまうために、シャープ・レシオがインデックス投資より小さくなるのです。
リスクを接点ポートフォリオのリスクRaからRk落としたい場合は、市場ポートフォリオと無リスク資産を持てば良いのです。これはまさにトービンの分離定理が言っていることです。高配当投資でリスクを落とすのはちょっともったいない投資だと言えます。同じリスクでもインデックス投資と無リスク資産の組み合わせのほうが大きなリターンを得ることができるからです。
インデック投資の出口戦略
蛇足ですがインデックス投資は出口戦略が難しいという話も聞きます。高配当投資は配当金が振り込まれるので出口戦略が楽ということです。インデックス投資は、配当金と異なって資産を切り崩すため、精神的負担が大きいことから、取り崩しはできないという人もいます。
しかし、これには解決策があります。現在の証券会社(楽天証券、SBI証券)ではファンドの定期売却サービスと呼ばれる機能があります。それを利用すれば配当金と同じ感覚でインデックスを取り崩すことができます。(楽天証券の定期売却のリンクはこちら、SBI証券の定期売却のリンクはこちら)定期売却サービスには定額売却と定率売却があります。(SBI証券は定額売却しか設定できなかったのですが最近定率売却もできるようになりました。)
定額売却は資産を一定の金額だけ取り崩すものです。毎月10万円と決めたら資産総額に関係なく10万円づつ売却します。定率売却は資産を定められた利率だけ取り崩すものです。2,000万円の資産で毎月1%の取り崩しなら20万円の取り崩しになりますが、1,000万円しかない場合は10万円の取り崩しになります。定率売却は月に貰える額が変動しますが、資産を長持ちさせるためには定率売却のほうが良いとされています。
楽天証券では切り崩した資金は「マネーブリッジ」という機能を利用することで、自動的に楽天銀行に入金することができます。つまり、楽天証券の口座を見る必要なく取り崩したお金が自動的に楽天銀行の口座に資金が振り込まれるので、配当金のように受け取ることが可能になります。これでインデックス投資の取り崩しが楽になるのではないでしょうか。SBI証券にも「ハイブリット預金」と呼ばれる同じような機能があります。
参考:実際のインデックスと高配当投資の比較
理論は上記で説明した通りですが、ここでは現実のインデックス投資と高配当投資のシャープレシオを見ていきましょう。米国株のVTIとVYMの比較と日本株のTOPIXと高配当ETFの比較です。
米国株インデックス(VTI)と米国株高配当(VYM)
VTI(Vanguard Total Stock Market Index Fund ETF)はアメリカの全株式のインデックスETFです。VYM(Vanguard High Dividend Yield)はアメリカの高配当株ETFです。以下のmyINDEX様のサイトからVTIとVYMの15年のシャープレシオを表とグラフにしました。
VTI | VYM | |
リターン(%) | +13.2 | +8.5 |
リスク(%) | 15.8 | 14.8 |
シャープ・レシオ | 0.8 | 0.7 |
(出典)https://myindex.jp/
表1からはVTIのほうがシャープ・レシオが高いことが分かります。
日本株インデックス(TOPIX)と日本株高配当ETF(日経平均高配当)
NEXT FUNDS TOPIX 連動型上場投資信託 (1306)はTOPIX(東証株価指数)を指数とする日本株のインデックスETFです。NEXT FUNDS 日経平均高配当株50指数連動型上場投信 (1489)は日本株の高配当ETFです。同様にmyINDEX様のサイトから1306と1489の5年のシャープ・レシオを表とグラフにしました。
NEXT FUNDS TOPIX 連動型上場投資信託 (1306) | NEXT FUNDS 日経平均高配当株50指数連動型上場投信 (1489) | |
リターン(%) | +9.9 | +13.6 |
リスク(%) | 14.7 | 16.9 |
シャープ・レシオ | 0.7 | 0.8 |
(出典)https://myindex.jp/
上図から高配当(1489)のほうがシャープ・レシオが高いことが分かります。日本株に限定した場合ではこれまでの実績からは高配当に軍配が上がります。比較期間が5年と短いことや日本が低迷していた期間が長いなどの理由があるかもしれませんが、高配当投資のほうが良い結果となっています。現在のところ、日本の場合は高配当のほうが妙味があると言える結果でした。理論と現実が異なっている面白い例でした。
たしかに現在では日本は高配当の方が人気があります。そして、現実も今のところ高配当に軍配が上がっています。
【参考図書】
「敗者のゲーム」はインデックス投資を始めるならまず読んでおきたい本です。アクティブファンドを購入や自分で銘柄選定するのを戒める内容になっており、インデックスファンドの握力を高めたい方にはぴったりの本です。
体系的に数式を使ってもっと深く学ぶには「現代ポートフォリオ理論講義」が良いと思います。こちらは教科書のような本なので理論派向けです。
色々な事例を交えつつ、インデックス投資を深く理解するには「ウォール街のランダム・ウォーカー」が最適です。500ページもあり情報がもりだくさんです。ただ、数式はほとんど出てこないので読みやすいでしょう。